むかし、むかし、あるところに清(きよし)という少年がいました。
清の住む村には冬になるとたくさんの雪が降ります。
その雪を降らすのが雪の神様「雪神様」。
村をおさめる清の家はむかしから雪神様と同じ家に住み、お世話をするのが仕事です。
清と雪神様は大の仲良し。
雪神様の部屋でお菓子を食べながら学校であったことを話したり、晩ご飯はいつも一緒に食べます。
そんな雪神様の唯一の楽しみが晩酌をすること。
いつもニコニコしながら徳利からお銚子にお酒を注いで呑んでいます。
この村は雪神様の降らしてくれる雪で豊かな土地になりました。
高い山に降った雪は、とてもきれいな水になって田んぼや畑を潤します。
また雪蔵は食べ物を長い時間腐らせずに保存するのに欠かせません。
村の人々は雪神様に感謝をして、それぞれの家でつくったお酒を清の家に持ってきては雪神様と一緒に呑みました。
秋が終わるころのある晩、いつも通り雪神様を囲んで村のみんなでお酒を呑んでいると百姓の権三郎が酔っぱらってこう言いました。
「雪神様、今年はいつもよりたくさん雪を降らせてもらえませんかぁ」
図々しくて酔っぱらいは嫌だなぁ……それを聞いていて清はそう思いました。
村のみんなも酔っ払っていたので「そうだ!そうだ!」と囃し立てました。
雪神様も顔を赤くしながらうんうんと頷き、美味しそうにお酒を呑んでいました。
しばらくして村に雪が降る季節になりました。
みんなとの約束を守ろうと雪神様は、はりきっています。
初雪を降らそうとしたそのとき、雪神様は手が滑ってしまい、思いもかけずたくさんの雪を降らせてしまいました。
三日三晩降り止まぬ雪で、家々の屋根の上には家の高さと同じくらいの雪が積もりました。
村中で来る日も来る日も雪かきをしなければいけませんでした。
でも、あの日に「雪をたくさん降らせて欲しい」と行ったのは村のみんなだということを清は忘れていません。
しかし、みんなは手のひらを返すように雪神様の悪口を言いました。
「こんなにたくさん雪はいらない!!」
「このままじゃ家が潰れちまうじゃねーか!!」
なかには清の家にまで来て、文句を言う人もいました。
それからと言うもの、あれだけ降っていた雪がピタリと止んで、まったく降らなくなってしまいました。
雪神様が心配になった清は部屋を見にいきました。
すると雪神様は「鬼」になっていました。
髪の毛は逆立ち真っ白に、目は吊り上がり、口は裂けていました。
怖くなった清は震えながら部屋を出ました。
「大好きだった雪神様が、ユキオニになってしまった……」
このままでは大変なことになってしまう、と思った清は村長でもあるお父さんにそのことを話しました。
「それは困った。雪神様がユキオニになってしまうと雪が降らなくなるんだ……」
と、お父さんは言いました。
この土地に雪が降らなくなったら大変なことになってしまいます。
お父さんは村のみんなを集めて相談することにしました。
雪神様がユキオニになったことを伝え、このままだと雪が降らなくなってしまう、と言いました。
それを聞いても「もう雪なんて降らなくていい!そんな神様は放っておけ!」
そう言ったのは、あの晩「雪をたくさん降らせてくれ」と言った権三郎です。
清は悲しくて悲しくて仕方がありませんでした。
あんなに村のみんなのことを考えてくれる神様は他にはいないことを知っているからです。
雪神様と一緒に雪合戦をして遊んだことを思い出すと涙が出てきました。
気づくと清は叫んでいました。
「なんでみんなのために雪を降らせてくれる雪神様にそんなことが言えるんだ!ぼくは雪神様が大好きだっ!もともとはみんながもっと雪を降らせてくれって言ったんじゃないか!!早く雪神様に戻って欲しい!!みんなは違うの!?」
清がそう言うと村のみんなは静かになりました。
しばらく沈黙続いたあとに、お父さんが「むかしから伝わるユキオニを雪神様に戻す方法があるから、みんなでやってみないか」と提案しました。
それは村中のお酒を一滴残さずお供えすれば、ユキオニから雪神様に戻るという言い伝えです。
「晩酌が呑めなくなってしまう!」村中の男たちは悲鳴を上げました。
ですが、これ以上雪が降らなければ夏になると田んぼや畑に水が足らなくなってしまいます。
男たちは急いで自分の家にあるお酒を一滴残らず集めました。
清も手伝って村中から集めたお酒をユキオニの部屋に運びました。
「こんなにたくさん呑めるのかなぁ……」清は少し心配しました。
そして次の日、供えられたお酒をすべて呑み干したユキオニは雪神様へと戻っていました。
村の人たちも一安心。
あの権三郎も泣いて喜んでいました。
もとに戻った雪神様は、すぐに村の人々のために雪を降らし始めました。
雪を降らせたあとはまた、徳利からお銚子にお酒を注いでニコニコおいしそうに呑んでいます。
おしまい。